なぜ今「住みながら売却」が注目されているのか
近年、不動産売却において「住みながら売る」というスタイルが急速に注目を集めています。その背景には、住宅ローン残債を抱えた売主や、住み替え資金を効率的に確保したい世帯の増加、さらには仮住まい費用を回避したいという現実的な事情があります。
従来、不動産売却といえば「先に退去し、空き家にしてから売却する」ことが一般的でした。確かに、内覧がしやすい、リフォーム後に印象が良くなるなどの利点もあります。しかし、近年では物価上昇と賃貸需要の逼迫によって仮住まいの確保が難しくなり、家賃や引越し費用などのコストが重くのしかかるようになっています。
たとえば、東京都内で家族向けの仮住まいを用意する場合、月額家賃は15万円以上が一般的です。これに加え、敷金・礼金・仲介手数料・家具の再設置費用などを含めると、短期間でも50万円以上の支出が発生するケースも少なくありません。こうした経済的負担を軽減する手段として、「住みながらの売却」が合理的な選択肢として広まりつつあります。
さらに、現在では不動産会社側のサービスも進化しており、住みながらでも売却活動がしやすい環境が整ってきました。例えば以下のような対応が一般的になっています。
- 内覧を事前予約制にして生活リズムに配慮
- オンライン内覧やVR内覧に対応
- 住みながらでも印象を損ねないステージング提案
- 査定依頼や書類提出の完全オンライン対応
特に大手不動産会社では、住みながら売却する顧客専用のサービスパッケージを用意しており、売主が「仮住まいなし・負担少なく」売却活動を完了できる体制が整っています。
住みながら売却が注目される理由には、もうひとつの側面もあります。それは、「居住中のほうが生活のイメージが湧きやすく、成約率が上がる」という買主側の心理です。空き家は無機質で寒々しい印象を与えがちですが、家具が配置されていると部屋の広さが明確になり、生活導線も具体的にイメージできるため、買主の決断が早くなる傾向があります。
このように、住みながら売却という選択肢は、コスト面・生活維持・売却成約率の観点からもメリットが多く、今後も主流の売却スタイルとして拡大していくことが予想されます。
どんな人に向いているのか?生活スタイル別の適性
住みながらの不動産売却は、すべての売主に適しているわけではありません。むしろ、生活スタイルや家庭環境、物件の立地や間取りによって向き不向きが分かれます。ここでは、具体的にどのような人がこのスタイルに適しているのかを解説します。
まず最も適しているのは、「売却益を次の住まいの資金にしたい人」です。住宅ローン残債がある場合、売却資金を使って完済したうえで新居購入資金に充てる必要があり、仮住まいの準備をする余裕がないケースが多くあります。住みながら売却できれば、引渡しと新居購入・引越しをシームレスにつなげることが可能になります。
次に挙げられるのが、「子育て世帯」や「高齢の親と同居している家庭」です。仮住まいによる生活環境の変化は、子どもの学習環境や介護生活にとって大きな負担になります。こうした家庭では、できるだけ現住居での生活を維持しつつ、スムーズな売却を目指したいというニーズが強く、住みながら売却という方法が現実的な解決策となります。
以下の表は、住みながらの売却に向いている人とそうでない人の比較です。
条件
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向いている人
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向いていない人
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住宅ローンの残債
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ある(売却資金が必要)
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なし(自己資金で住み替え可)
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家族構成
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小学生以下の子ども、高齢者同居
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単身世帯(自由に引越し可能)
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ライフスタイル
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在宅勤務可、柔軟に内覧対応可能
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不規則勤務、家を空けがち
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物件の状態
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清潔・整理整頓されている
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生活感が強すぎる、片付け困難
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引越し時期
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売却後の新居準備を段階的に進めたい
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新居がすでに決まっている
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売主が日常的に家を使っていることで、売却活動に支障が出るのではと心配する声もありますが、近年は「住みながらでも魅力的に見せるノウハウ」が豊富に蓄積されています。たとえば内覧前に以下のポイントを意識するだけで、印象は大きく変わります。
- 不要な家具や私物を一時的に収納
- 水回り(浴室・キッチン・トイレ)の徹底清掃
- カーテンや照明で明るさと清潔感を演出
- 生活臭を消すための換気と消臭対策
- 家族の在宅状況に応じた柔軟な対応時間の設定
また、最近ではプロによる「ホームステージング(住みながらの演出)」サービスも利用可能となっており、少ない予算でも買主の印象を劇的に高めることができます。
住みながら売却を成功させるためには、「生活しながらも、売却モードに切り替える意識」が重要です。売主としての自覚を持ち、内覧者をお迎えする準備を怠らなければ、住みながらでも高値売却を実現することは十分に可能です。信頼できる不動産会社と連携し、自分の生活スタイルと売却計画を丁寧に調整していくことが、成功への第一歩となるでしょう。